世界的に有名なギャンブラー「柏木昭男」

まずは、この世紀の対決を行った2名の紹介から行いたいと思います。

1人は現在、世界で知らない人はいないほど有名になった、アメリカ大統領「ドナルド・トランプ」。アメリカで若くして不動産王に上り詰め、カジノ経営も行っていた人物。そして、2016年11月に大統領選挙で大統領戦を制し、漫画のようなアメリカンドリームを手に入れたのは、もはや誰もが知るところ。

そして、もう1人の主役は伝説のギャンブラーと証される、日本の不動産王「柏木昭男」。山梨県で不動産業兼貸金業「柏木商事」を営んでいた代表取締役です。不動産と貸金というのはこの時代のセット販売の様なもので、お金を貸して、返せなくなったら担保の土地を獲り、高値で売りさばく手法を多くの同業者がとっていました。特に柏木氏は、富士スバルラインの建設などで大儲けし、バブル絶頂時期では首都圏でも地上げ・買収を行って莫大な財産を作ったとされています。

世界的プレイヤーになった29億円の勝利

柏木氏が世界的に知られる様になったのは1990年の事。オーストラリアのカジノ「スカイシティ・ダーウィン」で、得意ゲームは「バカラ」で1度の勝負にMAX BETの30万ドルを賭け17連勝を含む勝利、史上最高額とも言われる約29億円もの勝利を掴んだのです。

トランプ氏が柏木氏をカジノに招いた事から勝負が始まる

この対決のスタートは、ドナルド・トランプ氏が柏木氏を自身のカジノへ招いた事から始まりました。

カジノの運営において、小さなベットを繰り返す一般客エリアでは、人件費や運営コストを考えるとカジノは赤字を被ることも多いのです。ですので、カジノ経営においては、柏木氏の様な高額なベットを繰り返す「ハイローラー」といわれる人物に負けて貰うことが一番重要とされています。

トランプ氏は、オーストラリアで大勝利を掴んだニュースを耳にし、ニュージャージー州アトランティックシティのカジノ「トランプ・プラザ」に来て貰う為に、すぐに柏木氏にアプローチ。自家用ジェットを用意して迎えにきたのです。

初回の勝負は柏木氏の勝利。

そして、トランププラザで柏木氏の得意ゲーム「バカラ」で勝負が始まりました。

1度に25万ドル(当時のレート:約3700万円)ものベットが賭けられ、何度も勝負を繰り返す柏木氏。夕方から始まったプレイは、翌朝2時の段階ではカジノ側が+200万ドル。しかし、伝説のギャンブラー柏木氏の真骨頂はここから・・・、怒濤の23連勝で結果的に初日は柏木氏が400万ドル(約6億円)の勝利となり終わりました。

翌日にも、柏木氏とトランプカジノの勝負は続きましたが・・・、この高額で行われる世紀の勝負の情報を仕入れた地元メディアが騒ぎ出してしまい、柏木氏は200万ドル(約3億円)の勝利を掴んだ時点で勝負を止めてしまったのです。

結果、勝負は柏木氏の600万ドル(約9億円)の勝利で終了となりました。カジノ最大の損失額を被った、この勝ち逃げにトランプ氏は心底ご立腹だった事でしょう。

セカンドラウンドでトランプ氏がリベンジ。

負けたままでも終われないトランプ氏は、今度は「柏木氏 vs トランプカジノ」ではなく「柏木氏 vs トランプ氏」という形で直接対決を申し出たのです。

その舞台は初戦から3ヶ月後に訪れました。

この勝負に際してのルールはこちら。
・ベット額は20万ドル(約3000万円)
・勝負終了は、どちらかが1200万円の勝利又は敗北

2回目の勝負は1週間も続く激闘となりました。両者の勝利・敗北を経ながら、最終日には柏木氏の勝利が続き、+925万ドル(約14億円)という所まで達します。

この時点で、トランプ氏は、−1000万ドルになったら勝負を下りると宣言。

今思えば、不動産王にのし上がり、その後アメリカ大統領の座まで手にしてしまう「勝利の神」に愛された人物「ドナルド・トランプ」が負けるはずがなかったのかもしれません。

下りるという宣言までした弱気なトランプ氏でしたが、ここから盛り返し、数時間後には、プラスマイナス0の状態に・・・、そして、その10時間後には、なんと柏木氏が−1000万ドル(約15億円)となってしまったのです。

この時点ではトランプ氏は、ゲーム終了を提案。柏木氏の同意でこの伝説の勝負は「トランプ氏の勝利」で幕を閉じる事になりました。

この一戦はトランプ氏の著書にも記載されている。

この一戦はトランプ氏の著書にも記載されている。

1997年の著書「The Art of the Comeback」

この伝説の勝負は、映画の一部にも。

この勝負は、アメリカでもとにかく有名になり、マーティン・スコセッシ監督が手がけたロバート・デ・ニーロ主演の映画「カジノ」の劇中の一部にも。

劇中に登場する日本人ギャンブラーK・K・イチカワは、山梨県の不動産業兼貸金業『柏木商事』社長・柏木昭男がモデル。アメリカで有名となった料理人「ノブ・マツヒサ」こと松久信幸がイチカワを演じている。

「ウォーリア」や「ホエール」と呼ばれた柏木氏のその後・・・

カジノで大負けをすると、それを取り戻す為に、更なる大勝負に出る・・・。ギャンブルとはそういう物。この伝説の決戦で敗れ、−1000万ドル(約15億円)もの負債を追った柏木氏は、その後もアメリカやオーストラリアでバカラ賭博を続け、大きな損失を抱えてしまったのです。

多くのカジノは、柏木氏などの多額の勝負をするVIPに対しては現金を持っていなくても、「ツケ」で勝負を提供します。負けた場合には全て返済しないといけないので、柏木氏の損失はほぼカジノへの借金のままとなりました。

1992年1月に変わり果てた姿で発見。

仕事の内容的にも、カジノへの借金900万ドル(約13.5億円)など、恨みを持っている人間が数え切れない程いるのは簡単に想像できるので、犯人は見つからないまま時効となりましたが、柏木氏は、山梨県富士河口湖町の自宅で変わり果てた姿で発見されたのです。

大勝負から2年後の92年1月3日夜、その御殿の20畳ほどの台所で、社長は顔や首など約20カ所をメッタ刺しにされた状態で発見されたのだった。

この事件ではトランプ氏も含め様々な憶測が飛び交っています。

一説には、数億円もの借金を踏み倒されたドナルド・トランプ氏の所有カジノの筋が、アメリカ地下社会の殺し屋に依頼し、暗殺計画を遂行したとも言われています。

くしくも日本でカジノ合法化が決まった年に、アメリカ大統領に上り詰めたドナルド・トランプ氏と、そのトランプ氏とカジノで伝説の勝負をした日本人プレイヤー柏木昭男氏との物語。

ギャンブル依存症の典型的な姿として、参考にしなければいけないだろう。

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この記事を作成したキュレーター

福沢論吉

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